医薬品や化粧品の開発において、薬物の体内動態(吸収、分布、代謝、排泄)や細胞・組織中の状態を把握することは薬効を評価する上で非常に重要です。従来から実施されている血液中の薬物・代謝物濃度評価はもちろんのこと、現在では、適した部位に適した量の成分が存在するか評価するため、様々なイメージング技術による薬物・代謝物や生体高分子の分布状態評価(Pharmacodynamics (PD)、microenvironmental pharmacokinetics)が行われています。
生体で広く利用されている蛍光イメージングやMALDI-MSイメージングは空間分解能が10μm程度であり、器官や組織といった比較的大きな構造を評価するのに適していますが、近年、より微細な構造評価、個々の細胞や細胞小器官の評価を行うためにより高空間分解能・高感度のイメージング技術が必要となってきました。
当社では、各種イメージング技術を深化させ、高空間分解能を有するTOF-SIMS(空間分解能0.3~3 μm)やNanoSIMS(空間分解能50 nm)、より高い感度を有するLA-ICP-MS等を質量バイオイメージング技術として新たに開発しました。細胞内組織の状態評価や薬物動態分布の可視化が可能になっていますので、是非ご活用下さい。
各種質量イメージング手法の比較

SEM/NanoSIMSコンビネーションによる核酸医薬品の細胞内分布の可視化

マウスがん組織におけるホウ素中性子捕捉療法
(Boron Neutron Capture Therapy:BNCT)用ホウ素薬剤分布像

黄線はLA-ICP-MSによる測定領域

BNCT用ホウ素薬剤分布像
分析事例:
- 薬物の細胞内分布イメージングの極限追及
- NanoSIMSとSEMによる生体細胞内元素分布の高空間分解能イメージング
- 生体組織内の特定タンパク質の可視化 ー質量イメージングへの免疫染色の適用ー
- NanoSIMSによる皮膚断面の高空間分解能イメージング
- 眼球組織の質量イメージング-SIMSによる網膜断面の高空間分解能観察-
- NanoSIMSによる毛髪内部への薬剤浸透性評価
- fsLA-ICP-MSによるマウス脊髄中の微量元素定量イメージング
東レリサーチセンターのバイオイメージング
当社では、多数のイメージング手法を取り揃えております。
これまで工業材料分析で培ってきたイメージング技術を生体・バイオ試料分析へ適用し、お客様の研究開発 のお手伝いをさせていただきます。こちらでは、観察対象のサイズに応じたイメージング手法をご紹介いたします。
- 比較的広範囲で、結合状態や高次構造を見る「分光イメージング」
- μm~nmオーダーの領域で組成・元素を見る「質量イメージング」
- nmオーダーの微細な形態を見る「顕微鏡イメージング」

分光イメージング
分光イメージングでは物質の組成・結合状態・相互作用・高次構造分布を評価することができます。工業材料分野ではポリマーの組成分布や配向・結晶分析、劣化・異物分布分析等で広く利用されてきました。
バイオ・医療分野においては、薬効成分の結晶多型分布や薬液浸漬時の医療用材料の劣化分布、微小異物の分布評価、さらには水中の細胞構造の評価等へ適用が可能です。
鳥長骨横断面におけるコラーゲン繊維と
リン酸カルシウム比の分布
(FT-IRイメージング)

生細胞の液中O-PTIR分析
(出芽酵母細胞)

分析事例:
- ラマンイメージングによる各種薬剤成分の分布評価
- 薬液による医療材料の劣化状態の可視化~FT-IR-ATRイメージング法~
- 毛髪繊維配向の可視化~FT-IR-ATRイメージング法~
- O-PTIRを用いた水中における浮遊性細胞の分析
- 骨組織におけるコラーゲンとアパタイトの分布と構造
- 医薬品・医療用具・食品中の異物分析
質量イメージング
質量分析の高選択性・相対的な量的評価とプローブの走査による位置・分布情報を組み合わせて測定・解析することが可能です。工業材料分野ではポリマーの相分離構造の観察や添加剤などの拡散・浸透評価、金属、セラミックス中の不純物元素の観察等で利用されてきました。
バイオ・医療分野においては、薬物動態分布分析への応用や生体機能の解明、生体材料評価への適用などに期待が持たれています。

当社では、複数の質量イメージング手法を保有しており、それぞれの装置の特徴を元に最適なイメージング手法をご提案しております。

超高空間分解能元素イメージング法 NanoSIMS -皮膚断面や生体試料表面分析へ-
当社では、二次イオン質量分析(SIMS)装置の一種であるNanoSIMS 50Lを海外を含めた受託分析機関として初めて導入しました。従来のダイナミックSIMS、TOF-SIMSでは不可能な最小50 nmの高空間分解能でイメージング分析、デプスプロファイル分析が可能です。
NanoSIMSの特徴と既存イメージング手法との比較はこちら
NanoSIMSはその高い空間分解能を活かし、高感度で微小領域の元素イメージングが可能です。 具体的な活用事例として、毛髪や皮膚内部への薬剤の浸透性評価手法をご紹介いたします。
分析事例:
- NanoSIMSとSEMによる生体細胞内元素分布の高空間分解能イメージング
- 生体組織内の特定タンパク質の可視化 ー質量イメージングへの免疫染色の適用ー
- NanoSIMSによる皮膚断面の高空間分解能イメージング
- 眼球組織の質量イメージング-SIMSによる網膜断面の高空間分解能観察-
- NanoSIMSによる毛髪内部への薬剤浸透性評価
- fsLA-ICP-MSによるマウス脊髄中の微量元素定量イメージング
顕微鏡イメージング手法
顕微鏡イメージングでは、従来の光学顕微鏡、偏光顕微鏡、蛍光顕微鏡の他、電子顕微鏡(SEM、TEM)を使った微細領域2D,3D-イメージング、さらには最先端高速原子間力顕微鏡(AFM)を用いたリアルアイム表面微細凹凸イメージング、相互作用イメージング等、様々な評価が可能です。
バイオ・医療分野においては、細胞中高空間分解能三次元構造観察やタンパク質の動的相互作用観察等が可能となります。
AFM観察結果(液中)および鎖長計測

高分解能レーザー顕微鏡によるマウス胚由来の細細胞( C3H10T1/2 )の動的観察
3D-SEMによるラット腎組織の高分解能3次元観察

分析事例:
- 原子間力顕微鏡(AFM)、レーザー顕微鏡を用いた細胞の高分解能観察
- X線CTおよび3D-SEM法によるラット腎組織の立体構造解析への取組み
- 4D-STEMを用いた生体吸収性Mg合金の微細構造解析
- 高速AFMによる新型コロナウイルスのスパイクタンパク質とウイルスの標的タンパク質の結合観察
- 原子間力顕微鏡(AFM)を用いたmRNAワクチン/mRNA医薬品に向けた品質評価
各種イメージング手法の比較
必要な分布情報を得るために多数のイメージング手法をご用意しております。 詳細は是非お問い合わせください。
分類 | 分析手法 | プローブ | 試料サイズ・量 | 測定雰囲気 | 空間分解能 | イメージング領域 | 得られる情報 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
分光 イメージング |
X線回折 | X線 | 数cm | 大気 | ~サブmm | ~数十cm | 高次構造解析 |
ラマン分光法 | 近赤外可視紫外光 | ~数cm | 大気 (雰囲気制御可) | ~1μm | ~数mm | 高次構造解析 官能基変化 |
|
AFM-ラマン 分光法 |
~数mm | 大気 | ~100nm | ~数μm | |||
FT-IR法 | 赤外光 | 数cm | N2パージまたは真空 | ~10mm | ~数cm | 組成 官能基変化 |
|
AFM-IR法 | ~数mm (厚み100nm切片) | N2パージ | 100nm | ~数μm | |||
テラヘルツ 分光法 |
テラヘルツ光 | 数cm | 大気 | ~数mm | - | コンフォメーション解析 | |
質量 イメージング |
MALDI-MS | N2レーザー | 1mg | 真空 | 数10μm | ~500μm | 分子情報 (m/z < 数万) |
TOF-SIMS | イオンビーム | 数10mm | 真空 | ~300nm | ~500μm | 元素・分子フラグメント (1 < m/z < 2,000) |
|
Nano-SIMS | イオンビーム | 数10mm | 真空 | 50nm | ~10μm | 元素情報 高空間分解能 |
|
LA-ICP-MS | レーザー | ~10mm | 大気 | 10μm | ~10mm | 元素情報 高感度 |
|
顕微鏡 イメージング |
SEM | 電子線 | ~数100μm | 真空 | ~100nm | ~数μm | 形状、元素情報 ※要前処理 |
EPMA | 電子線 | ~数100μm | 真空 | ~100nm | ~数μm | 形状、元素情報 ※要前処理 |
|
TEM | 電子線 | 数μm | 真空 | ~1nm | ~数100nm | 形状、元素情報 ※要前処理(薄片化) |
|
AFM | 探針 | ~数十μm | 大気、液中 | ~数nm | ~数十μm | 形状、弾性率、 相互作用(吸着力) |