東レテクノ特集

株式会社東レリサーチセンターは、グループ会社である東レテクノ株式会社での調査・分析・試験・測定等、各種評価や試作業務を活用することにより、お客様の問題・課題解決へよりよい支援のためのソリューションを提案しています。東レテクノ特集をテーマごとに特設ページにてご紹介いたします。

バイオマス

バイオマスは、「再生可能な生物由来の有機性資源で、化石資源を除いたもの」と定義されるもので、持続可能な資源としてサステイナブル社会の実現(SDGs)への利用が期待されています。国内では、バイオマス活用推進基本法に基づいて、「新たなバイオマス活用推進基本計画(平成28年9月16日閣議決定)」が推進されており、当面は2025年までに年間約2,600万炭素トンのバイオマスを利用し、新たな産業創出5,000億円の市場を形成することが目標とされております。
バイオマスの利用方法は、直接燃焼のほか、バイオディーゼルやバイオエタノールなど液化燃料、バイオマスのガス化によって水素や燃料ガスを得る方法等、様々な方法がありますが、特に原料であるバイオマスマテリアルの成分を分析することは、使用時の安全性やプロセスの有効性評価において重要とされています。
(参考資料)農林水産省バイオマス産業の市場規模

バイオマスの中でも活用が期待されている木質や草本系マテリアルにはセルロース等の多糖、リグニン、樹脂及び無機物などが含まれており、バイオマス燃料としての利用や、バイオエタノール、バイオガスの生産、各種製品や商品へと利用する際に、その組成・成分を分析・評価することは重要で、セルロース、ヘミセルロースなどはメチル化分析やNMR測定など各種機器分析を用いることで構造解析へ展開することも可能です。ここでは、糖の組成とリグニンの定量分析した事例を紹介します。

バイオマス組成分析 糖組成とリグニンの定量分析

バイオマスのエネルギー利用は、温室効果ガス削減対策、持続的エネルギー資源確保または地域循環社会形成等の多様な期待がもたれ、様々な方面で研究開発または実証化実験が行われています。一方でカーボンニュートラルを目的とした、バイオマス由来の糖やリグニンからの化学品基礎原料や、機能性素材であるセルロースナノファイバーなどのバイオベースマテリアルの製造にも推進されています。このようなバイオマス利活用(バイオリファイナリー)の研究開発は、原油価格の変動などによって流行りや廃れはあるものの、近年の気候変動の実態を背景とした国際的なCO2削減の流れを考慮すると、近未来に確実に推進されるべきものであります。

バイオマスとは、生物資源(bio)の量(mass)を表す概念であるので、地球上にある動植物すべてを表すのですが、現実には利用可能なバイオマスは大別して、食品残さのような「廃棄物系バイオマス」、農作物非可食部や林地残材のような「未利用バイオマス」、そして「資源作物」が挙げられます。これらのほとんどは植物由来であるので、植物の主成分であるセルロース(繊維質)とリグニン(芳香族化合物)を出発点として、種々の化学品や新素材に変換するプロセスが主流です。

未利用バイオマス
〇エネルギー利用
・直接燃焼、ガス化などにより電気、熱に
・エタノール、ディーゼルなどにより燃料に
〇マテリアル利用
・プラスチック、セルロースナノファイバーなどの素材などに
・アミノ酸、有用化学物質などに
農業資源(稲・麦藁、籾殻など)のイメージ写真 林業資源(間伐材など)のイメージ写真

●農業資源(稲・麦藁、籾殻など)●林業資源(間伐材など)

(参考資料)大館市|バイオマスノ活用

バイオマス成分であるセルロースやリグニンの変換プロセス開発において、もっとも大事なのは変換効率を高めることであり、その検証のためには原料バイオマスの成分と変換後の量的把握が必要になります。そのための定量分析について紹介します。

バイオマスの糖組成分析

基本的にバイオマスの主成分は糖のポリマーであるセルロース(繊維質)とリグニンです。繊維質は硫酸で加水分解すると単糖になり可溶化します。この単糖を液体クロマトグラフィー(HPLC)で定量することで、バイオマスに含まれる中性糖の質と量を分析することが可能になります。

バイオマスの糖組成分析フロー_HPLC単糖定量ポストカラム蛍光検出法

バイオマス由来の中性単糖の液体クロマトグラム

一方でリグニンは硫酸では溶けません※1。すなわち、バイオマスを加水分解した残さのほとんどはリグニンであります※2。このため、糖組成分析を行うと同時に簡易的にリグニン量を定量することができます※3。

草本から分画したクラーソン(酸不溶性)リグニンの写真(実物)

※1 リグニンの一部は可溶化しますが、これは分解液の吸光度を測定し概略定量することで補正することが可能です。
※2 この残さをクラーソンリグニンと称します。また、バイオマスに含まれるケイ酸塩は、残さ中で不溶性のシリカとして残存するので正の誤差が生じます。ケイ素が多いバイオマスについては残さを灰化してシリカ量を補正する必要があります。
※3 リグニンの定義は、分子量無限大の芳香族化合物で溶媒に不溶であることから、この方法では溶媒可溶性のリグニン類似物質も定量しています。

バイオマスの主成分分析

木質の主成分はセルロース、リグニンで、副成分として油分(Wax)、無機物(灰分)であり、草本ではこれにタンパクやデンプンなどが含まれます。セルロースやリグニンは薬品への耐性を利用して分画することで定量することができます。バイオマスを溶媒抽出し油分を除去した脱脂試料に、塩素分解することでリグニンを除去し、ホロセルロース(粗繊維)を分画し定量します。その後、アルカリ分解で非晶質セルロースであるヘミセルロース※4を除去し、結晶質セルロース(αセルロース)を分画し定量します。同様に脱脂試料を硫酸加水分解する(糖組成分析の分解法と同様)ことでリグニンが定量できます。必要であれば、副成分であるタンパクやデンプンを個別に定量します。

バイオマスの主成分分析による評価のイメージフロー

※4 ヘミセルロース量はホロセルロースからαセルロースを引くことで算定できます。

糖組成分析と主成分分析の比較

バイオマスの成分定量値の妥当性は、値付けされた標準試料の入手が極めて稀であることから、客観的に評価することが難しいものです。この問題を解消するために、紹介した2つの手法を用いて得られた定量値を比較することで、それぞれの分析手法の妥当性を評価しました。使用したバイオマスはサトウキビの搾りかすであるバガスです。

まず、両手法の結果を直接比較することは難しいので、糖組成分析で得られた中性単糖の値を、多糖に換算しました。これは単糖の値を、単糖の分子(グルコースの分子量は180 g/mol)が縮合し多糖になったときの残基の分子量(グルコースの多糖であるグルカン残基は162 g/mol)に換算することで算定できます。バガスはヘミセルロースにグルコースがほとんど存在しないバイオマスなので、グルカンがαセルロース、それ以外の多糖(定量したキシロース、アラビノース、フルクトース、ガラクトース、ラムノース、マンノース、フコース由来の多糖)がヘミセルロース由来であるといえます。

2つの分析手法による結果を比較したグラフを示します。上述したとおり、グルカンはαセルロースと、グルカン以外の多糖の合計をヘミセルロースに近似しました。結果として糖組成分析で求めた構成多糖合計(67.9%)と、主成分分析で定量した繊維質合計(70.8%)では2-3%構成多糖が少なくなっていますが、これはホロセルロースに含まれる微量成分の酸性糖、アセチル基、メチル基に相当する差と推定できました。

また、糖組成分析で得られた分解残渣量は、主成分分析で得られたリグニン量と近似しました。

このように糖組成結果を解析し、正しく主成分分析結果と比較することで、分析手法の妥当性評価できました。

バガスを使用した糖組成分析と主成分分析の測定結果の比較図

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バイオマスの糖分析・脂質分析 
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