
PFASとは
PFAS(Per- and Polyfluoroalkyl Substances)は、1万種類を超える有機フッ素化合物の総称で、耐熱性・耐薬品性・撥水性・撥油性といった優れた特性から、潤滑剤、繊維撥水剤、半導体用冷媒、界面活性剤など多くの製品に利用されています。
しかし、PFASは自然界で分解されにくく、環境中に長期残留することから、健康や環境への影響が懸念されており、特にPFOA(ペルフルオロオクタン酸)およびPFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)は発がん性のリスクが指摘され、すでに輸入や製造が禁止されています。
規制動向と市場インパクト
2023年には欧州のREACH規制において、全PFASを対象とした製造・使用・輸入の制限案が提出されました。これにより、これまでのように特定のPFASに対する微量分析だけでなく、代替品開発や回収・分解処理の必要性が一層高まっています。
代替品開発の課題と分析支援
PFASの代替品には、(1)PFASに属さない含フッ素化合物、(2)非含フッ素化合物の2つのアプローチがあります。今後の規制強化を考慮すると、非含フッ素化合物の研究が加速する一方で、性能面での課題が発生しやすいため、適切な分析・評価が重要です。
● 液体試料(消火剤、冷媒、洗浄液など)の評価支援
分析対象として、粘度、比重、表面張力、熱物性、電気特性、構造解析など多様な観点が挙げられます。これらに対して最適な手法を選定し、性能を評価します。
▶ 表1:液体試料における代替品評価と分析手法
項目 | 分析手法 | |
---|---|---|
物理物性 | 動粘度(粘度) | 毛細管法、電磁スピニング(EMS)法 |
密度(比重) | ピクノメータ法、振動式密度計法 | |
体膨張係数 | ||
体積弾性率 | 振動式密度計法 | |
圧縮率 | ||
表面張力 | リング法、懸滴法 | |
熱物性 | 蒸気圧 | 静止法、沸点法、DSC法、気体流通法 |
蒸発潜熱 | DSC法、熱量計法 | |
比熱 | DSC法 | |
熱伝導率 | 非定常細線法、ニードルプローブ法、比較定常法 | |
電気物性 | 体積抵抗率 | 三端子法 |
電気伝導度 | ||
誘電率・誘電損失 | 平行平板法、同舳プローブ法 | |
構造解析 | 主成分定性、純度解析 | 溶液NMR、GC/MS、LC/MS |
不純物分析(定性・定量) | 高分解能GC/MS、LC/MS、IC | |
元素分析 | CHN元素分析、燃焼IC(フッ素定量) |
● 固体試料(撥水剤、コーティング剤など)の評価支援
撥水性や表面組成、構造評価、耐薬品性に至るまで、複合的な評価が求められます。特にSEMやXPS、TOF-SIMSなどの表面分析を活用して、撥水性等の評価を実施します。
▶︎ 表2:固体試料における代替品評価と分析手法
項目 | 分析手法 | |
---|---|---|
撥水性 | 濡れ性(平面) | 接触角(表面自由エネルギー) |
濡れ性(粉体) | 浸漬熱試験 | |
濡れ性(微小領域) | SEM | |
表面組成 | 元素情報 | XPS、化学修飾XPS |
官能基情報 | FT-IR | |
有機組成 | TOF-SIMS | |
構造・組成 | 分子量 | GPC |
層構成 | SEM観察、IRマッピング | |
深さ方向の組成 | 研磨IR、GCIB-TOF-SIMS、断面EPMAマッピング | |
耐薬品性 | 溶出物の定性・定量 | GC/MS、LC/MS |
浸漬試験後表面情報 | AFM、IR、XPS |
分解・回収技術の課題と分析支援
PFASの分解処理に関しては、熱分解法、電気分解法、光触媒法など多様な研究が進められており、生成される中間体やフッ素イオンの挙動も重要な研究対象です。
また、回収処理後の吸着剤構造や残存物評価も、処理プロセスの有効性を左右する重要項目です。
▶︎ 表3:PFASの回収・処理法開発における分析支援項目
項目 | 分析手法 | |
---|---|---|
回収メカニズム | 回収率 | LC/MS、IC |
吸着剤の構造解析 | X線CT、2D-SEM、TEM | |
吸着剤の組成 | IR、固体NMR、熱分解GC/MS | |
分解メカニズム | 分解物の定性(液体) | 高分解能LC/MS、IC、NMR |
分解物の定性(ガス) | HS-GC/MS、FT-IR |
東レリサーチセンターの支援内容
- PFAS・PFOA・PFOS の微量定量
- 各種代替品の構造・物性評価(物理・熱・表面・組成)
- 分解生成物・副生成物の構造解明と定量分析
- フッ素元素や吸着剤構造に関するリサイクル支援
補足:PFAS定量・フッ素樹脂の詳細分析
PFASおよびフッ素樹脂に特化した定量、劣化挙動、分解生成物分析など、対応可能な分析メニューを幅広く保有しています。
▶︎ 表4:PFASおよびフッ素樹脂のその他の分析項目と手法
項目 | 分析手法 | |
---|---|---|
PFAS定量 | 各成分の定量 | LC/MS/MS |
フッ素元素の定量 | 超高感度燃焼IC測定* | |
フッ素樹脂 | 有機組成 | 個体19F-NMR |
劣化 | IR、TPD-MS | |
分解挙動 | 加熱発生ガス-GC/MS |