組成分析
高分子がどのような分子種で構成されているか不明な場合は、先ず組成を分析するのをお勧めします。分子種が判明すれば、おおよその性質は推定できます。分子種が1種類ではなく、何種類かになる共重合物である場合は、共重合比率も重要です。
分子量
高分子としての性質を発現しているのは、分子が繋がっていることによります。どの程度連結しているのかを表すのが、分子量(分布)です。分子量は、強度や溶融粘度などの物性値に関係するので、トラブル解決には必須です。
結晶・非晶
結晶性高分子の場合、熱・機械特性は結晶状態を反映します。たとえば、フィルムや糸を作る際、高分子材料を一旦溶融した後、固化させます。この固化過程での温度、変形様式・速度、時間に依り、結晶・非晶状態の異なる様々な構造が発現し、強度等に大きく影響するのです。したがって、配向を含めた結晶・非晶構造を把握することが重要となります。
分散状態
弾性率、線膨張率、耐熱性などを制御するために、無機フィラーを含有している場合があります。フィラーの分散状態やフィラーと高分子の接着状態が物性に反映されるため、観察等により、これらを把握することが重要です。また、性能発現のため、何種類かの高分子を混合させて、ポリマブレンドやポリマアロイにする場合にも、分散状態や界面状態の観察などが重要となります。
添加剤
高分子材料には、酸化防止剤、光安定剤、熱安定剤、難燃剤、相溶化剤、可塑剤など色々な添加剤が含まれています。微量な場合が多いが、性能に大きく影響するので、その種類の特定と定量が重要です。劣化の場合などは、添加剤の変性や含有量の減少などに起因する可能性があります。
劣化
分子量の低下、結晶・非晶状態、分散状態、添加剤の変化だけでなく、分子構造の変化も劣化の要因として挙げられます。
このような場合は分子構造を調べる必要が生じます。また、表面から変質は起きることが多いので、どの程度の深さまで変質が進行しているのか、深さ方向の分析も欠かせません。
このような場合は分子構造を調べる必要が生じます。また、表面から変質は起きることが多いので、どの程度の深さまで変質が進行しているのか、深さ方向の分析も欠かせません。
分析メニュー
高分子材料に関係する分析項目・手法は非常に多く、分析の立場で見ると一筋縄ではいきません。闇雲に分析するのではなく、ある程度の推論を加えて、分析手法を決定することが重要です。
高分子材料によく用いられる手法
項目 | 詳細 | 手法 |
---|---|---|
組成分析 | 溶媒可溶 | FT-IR、溶液NMR、GC/MS、MALDI-MS、等 |
溶媒不溶 | FT-IR、熱分解GC/MS、化学分解分析、等 | |
分子量分布 | GPC、GPC-MALS | |
分子サイズ | GPC-MALS | |
分岐度 | 長鎖分岐 | GPC-MALS |
短鎖分岐 | NMR、FT-IR | |
レオロジー特性 | 動的粘弾性、回転粘度計・毛管法(定常流) | |
化学構造解析 | FT-IR、Raman、ESR、固体・溶液NMR | |
表面・ 深さ方向分析 |
XPS、TOF-SIMS、FT-IR(ATR法)、精密斜め切削法 | |
形態観察 | 分散状態 | SEM、TEM、3D-TEM、SPM |
微小部の元素分布 | SEM-EDX、TEM-EDX、TEM-EELS | |
加熱発生ガス | GC/MS、TG-MS、TPD-MS | |
微小異物分析 | 顕微FT-IR、µ-MS、SEM-EDX | |
添加剤 | 組成分析 | 抽出、 FT-IR、 溶液・固体NMR、 GC/MS、等 |
定量分析 | 抽出、 GC/MS-SIM、 HPLC/UV、 LC/MS/MS、等 | |
カーボンブラック定量 | TG | |
無機フィラーの同定 | X線回折、蛍光X線 | |
含有微量元素 | 金属 | ICP-MS、ICP-AES |
ハロゲン等 | イオンクロマト |
項目 | 詳細 | 手法 |
---|---|---|
結晶 | 結晶構造 | X線回折 |
結晶化度 | X線回折、DSC、密度 | |
結晶サイズ | X線回折 | |
結晶配向度 | X線回折 | |
融点 | DSC | |
微小部の結晶性、配向度 | 顕微Raman | |
ラメラ構造、長周期 | X線小角散乱 | |
非晶 | 非晶部の運動生 | 固体NMR |
剛直非晶 | 温度変調DSC | |
ガラス転移温度 | 温度変調DSC、動的粘弾性 | |
非晶部の自由体積 | 陽電子消滅法 | |
結晶-非晶 | 配向度 | 偏光FT-IR、複屈折 |
形態観察 | TEM、SPM | |
結晶-非晶の状態 | DSC、固体NMR、動的粘弾性 |
劣化解析メニュー
高分子材料は色々な使い方がされていますが、使用していくうちに、光、熱、酸化、吸湿、応力などにより劣化が進行し、本来の性能が低下します。劣化の程度や劣化の要因を評価することは、非常に重要です。 ただし、高分子材料の劣化解析に適用できる分析項目・手法は非常に多岐にわたります。闇雲に分析するのではなく、ある程度の推論を加えて、分析手法を決定することが重要です。
対象 | 項目 | 分析項目 | 手法 |
---|---|---|---|
高分子鎖 | 分子鎖の切断 | 分子量分布 | GPC、GPC-MALS |
官能基など化学構造の変化 | 官能基 | FT-IR、Raman、 ESR、 固体・溶液NMR | |
深さ方向分布 | 精密斜め切削法、 FT-IR、XPS、TOF-SIMS | ||
高分子の高次構造 | 結晶の状態変化 | 結晶化度 | X線回折、DSC、密度 |
結晶構造、配向度、サイズ | X線回折 | ||
ラメラ構造、長周期 | X線小角散乱 | ||
微小部の結晶性、配向度 | 顕微Raman | ||
非晶の状態変化 | 非晶部の運動性 | 固体NMR | |
ガラス転移温度 | DSC、温度変調DSC、動的粘弾性 | ||
結晶・非晶の状態変化 | 配向度 | 偏光FT-IR、複屈折 | |
形態観察 | TEM、SPM | ||
結晶-非晶の状態 | DSC、固体NMR、動的粘弾性 | ||
フィラーやポリマアロイなどの分散・界面状態の変化 | 形態観察 | SEM、TEM、SPM | |
微小部の元素分析 | SEM-EDX、TEM-EDX、TEM-EELS、3D-TEM | ||
発生ガス成分の変化 | 加熱時発生ガス | GC/MS、TPD-MS | |
異物の発生 | 微小異物分析 | 顕微FT-IR、µ-MS、SEM-EDX | |
高分子以外の含有物 | 安定剤などの添加剤の変性や含有量の変化 | 有機物の定性、定量分析 | 抽出、GC/MS、 LC/UV、 LC/MS/MS等 |
カーボンブラック定量 | TG | ||
無機フィラーの定量 | X線回折、蛍光X線 | ||
含有微量元素の変化 | 金属 | ICP-MS、ICP-AES | |
ハロゲン等 | イオンクロマト |