リチウムイオン電池は、小型のモバイル用電源として広く普及しており、今後大型の自動車用電源としての展開が期待されています。そのために、高容量化や高耐久性、安全性の確保のために多くの研究開発が進められています。リチウムイオン電池は、金属酸化物や炭素材料、ポリマー、有機溶媒など非常に多くの材料から構成されており、電池性能の変化には非常に多くの因子が関連することが推定されます。また、活性の高い物質も多く含まれるため、雰囲気制御されたグローブボックス内での試料の取り扱いが必須です。以下に、不活性雰囲気での対応が可能な分析事例を中心に、リチウムイオン電池の分析メニューを示します。
試料前処理の重要性
リチウムイオン電池の構成材料には反応性の高いものが多く、試料は解体から分析まで、不活性雰囲気下で取り扱う必要があります。大気由来の水分や酸素、二酸化炭素による試料の変質を避けるため、高純度アルゴン雰囲気グローブボックスを用いて、試料の解体や測定セルへの移動を行います。
組成分析
電極の構成材料は、正極、負極、電解液、電解質、バインダー、セパレータなど、非常に多岐にわたります。リチウムイオン電池がどのような材料から構成されているかについて、組成分析や形態観察をもちいて、定性、定量することが可能です。
劣化解析
リチウムイオン電池の性能低下を解析する際、詳細な組成分析が必要となります。リチウムイオン電池では、電極表面や活物質表面を介してリチウムの授受を行うことで、その機能が発現します。そのため、電極や活物質表面の組成や構造変化が電池特性に大きな影響を及ぼすことになります。また、電解液や電解質の劣化・変性成分を検出することで、電池内部で生じた化学反応、劣化メカニズムについての知見を得ることも可能です。
分析メニュー
着目点 | 分析手法 | |
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正極 | 形態観察 | 走査型電子顕微鏡観察(SEM) 透過電子顕微鏡観察(TEM) |
元素組成比 | 誘導結合プラズマ発光分析法(ICP-AES) 分析電子顕微鏡(Scanning TEM) |
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電極の組成比 | 熱重量測定(TG) | |
断面方向の組成分析 | 飛行時間型2次イオン質量分析法(TOF-SIMS) | |
結晶構造の変化 | X線回折、ラマン分光法(Raman) | |
金属異元素の 価数評価 |
電子スピン共鳴(ESR) X線吸収微細構造解析(XAFS) 電子エネルギー損失分光法(TEM-EELS) X線光電子分光法(XPS) |
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負極 | 形態観察 | 走査型電子顕微鏡観察(SEM) 透過電子顕微鏡観察(TEM) |
元素組成比分析(Liの定量) | 誘導結合プラズマ発光分析法(ICP-AES) | |
電極の組成比 | 熱重量測定(TG) | |
電極断面の組成分布 | 飛行時間型2次イオン質量分析法(TOF-SIMS) | |
正極の溶出 | 誘導結合プラズマ発光分析法(ICP-AES)、 X線光電子分光法(XPS) 2次イオン質量分析法(SIMS) |
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結晶構造変化 | X線回折、ラマン分光法(Raman)、 透過電子顕微鏡観察(TEM)、 電子スピン共鳴法(ESR) |
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リチウムのステージ構造、 金属リチウムの存在 |
固体核磁気共鳴法(Li-NMR) | |
電極/電解液界面 | 電極/電解液界面の組成分析 | X線光電子分光法(XPS)、 飛行時間型2次イオン質量分析法(TOF-SIMS) フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)、 オージェ電子分光法 |
SEIの相対膜厚評価 | X線光電子分光法(XPS)、オージェ電子分光法 | |
バインダー | バインダーの組成分析 | 固体核磁気共鳴法(NMR)、赤外分光法 |
バインダーの分布観察、形態変化 | 透過型電子顕微鏡、走査型電子顕微鏡観察、 元素分析 |
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バインダーの分子量分布 | ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC) | |
電解液、電解質 | 電解液の組成、劣化物分析 | ガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS) |
電解質の拡散係数測定 | 磁場勾配固体核磁気共鳴法(NMR) | |
セパレータ | セパレータの形態観察 | 透過型電子顕微鏡観察(TEM) 走査型電子顕微鏡観察(SEM) |
セパレータの組成分析 | フーリエ変換赤外分光法(FT-IR) |