腐植物質

腐植物質の分析 【フルボ酸とフミン酸の定量分析】

はじめに

近年注目を集めている腐植物質(フルボ酸、フミン酸等)は、単一の化学構造を持つ物質ではなく、腐植化の過程や原料によって分子構造が異なる物質群の総称です。腐植物質(特にフルボ酸)を含有していることを表記した土壌や植物の農業分野などに用いられる改良剤やヘルスケア製品向けの用途で市場に多くの使用が見られますが、これら機能性有機物として扱われる一方で、有機性汚濁物質や水処理妨害物質としても注目されています。
しかし、これらに含有する腐植物質(フルボ酸、フミン酸)を同定・定量するための公的な方法はなく、その腐植物質が生成された過程や起源等を調べる方法や定量方法は、大学等の研究者によって提案されている状況です。
弊社では、腐植物質の特徴を説明する手段として、従来から腐植物質分析に用いられている全有機体炭素測定、三次元蛍光スペクトル測定(EEM)、GPC-UV/TC分析などを組み合わせることにより、様々な試料中の腐植物質(フルボ酸、フミン酸)の定性・定量分析に対応いたします。
ただし、肥料取締法における「肥料」の腐植酸含有量については、肥料分析法に従い定量します。

<注目の有機物>
・機能性有機物:土壌改良材、水産環境改善、ヘルスケア機能等
・有機性汚濁物質:湖沼等における有機物の環境基準未達原因となる「難分解性有機物」等
・水処理妨害物質:水処理プロセスにおいて膜ファウリングを促進する等

腐植物質とは

腐植物質とは、生物体有機物が微生物学的分解と再合成(微生物ループ)や物理・化学的作用を受けて生じた「化学構造が特定されない有機物」の総称であり、分子量が数百以上の多価カルボン酸で単一の化学構造は持たず、黄色~茶褐色の色を呈し、特有の蛍光特性を持ちます。更に、樹脂吸着特性や酸・アルカリへの溶解性によって「フルボ酸」「フミン酸」「親水性酸」に分類されていますが、研究者により複数の分類基準が提案されています。実際の分子構造に境界はなく、中間的な特性の分子が存在し、脱炭酸、脱メタン、脱水の進行により、親水性酸、フルボ酸、フミン酸に変化していくと言われています。

<有機物循環と腐植の生成>

有機物循環と腐植の生成のイメージ図
  • 【有機物の生成と循環】
    自然界では、植物による一次生産(光合成)による有機物生産、生化学的な合成により、様々な高分子化合物(バイオポリマー)が生産されます。
  • 【人工有機物・水利用】
    人間活動では、理化学的手法で様々な有機物が合成され、地下資源から有機物が採取され利用されます。水利用では、浄水処理(精製)で水中の有機物を取り除き、人間活動に利用します。
  • 【微生物ループ】
    新陳代謝や食物連鎖または排水として、環境中に放出された後、微生物ループにより腐植化、無機化されていきます。

水中の有機物分析を行うときはこれら動態を考慮した分析手法選択が重要になります。

<腐植物質の一般的な分類>

腐植物質の一般的な分類表

<腐植物質の分子構造例>
引用文献 千葉工業大学工学部生命環境科学科 山口達明「地下かん水について知っていますか?」

引用文献 千葉工業大学工学部生命環境科学科 山口達明「地下かん水について知っていますか?」

分析方法

腐植物質の酸・アルカリによる溶性を利用して、フルボ酸とフミン酸を分画します。腐植物質が特有の蛍光特性を示すことから、特定波長での励起・蛍光強度測定(三次元蛍光スペクトル測定)によって得られる蛍光強度の総和により定量(*)します。
「腐植物質に特有の蛍光特性を利用した定量」という点で、腐植に対して選択性が高いと言えます。
(*)硫酸キニーネや標準物質(日本腐植物質学会頒布)により規格化して定量
また、TOC(全有機体炭素)を定量することで、より確からしい定量値を算出します。その他、GPC-UV/TC分析を組み合わせることにより、有機物の分子量分布を把握し総合的に判断することも可能です。
出典:腐植物質分析ハンドブック 第2版-標準試料を例にして- 農山漁村文化協会、2019年発行
   環境中の腐植物質 その特徴と研究法 三共出版、2008年発行

<フルボ酸・フミン酸の分画フロー>

フルボ酸・フミン酸の分画フロー図

<三次元蛍光スペクトル法(EEM)>
励起光を照射すると物質は基底状態から励起状態に遷移しますが、その後、基底状態に戻る時に蛍光を発するという原理を用いて測定します。
単波長の励起光で取得した蛍光スペクトルを積み上げて、「励起波長-蛍光波長-蛍光強度」の3次元のマトリックスデータ(EEM)を等高線状のチャートにして表現します。

三次元蛍光スペクトル法(EEM)の等高線状のチャート図

<全有機炭素測定(TOC)>
有機物を酸化分解すると二酸化炭素が発生するという原理を利用して測定します。発生した二酸化炭素量は非分散型赤外線分析計(NDIR)により検出することができます。また。発生した二酸化炭素量は有機物量に比例することから、発生した二酸化炭素量から有機物量(TOC)を定量することができます。

全有機炭素測定(TOC)での定量分析イメージ図

<分子量分画分析(GPC-UV/TC)>
炭素量に応答する検出器を搭載したGPC装置を用いて、溶存有機物の分子分布パターンとUV吸収パターンを測定します。分子量(数百~数万程度)のどの分子量の有機物が存在するか、存在した有機物がUV吸収を持つかなどの情報が得られます。腐植物質はUV吸収を持つが、糖類はUV吸収を持たないこと等から溶存有機物の特性を考察します。

その他

<IHSS法と三次元蛍光スペクトル法(EEM)の違いについて>

  1. IHSS法
    腐植物質の分離・精製法として、IHSS(国際腐植物質学会)法が推奨されています。
    この手法により、底質や水中の腐植物質を大量に入手することが可能となっています。しかしながら、本法は、分離・精製を主眼としているため、樹脂による吸脱着や脱塩処理の際のロスが大きいものです。
  2. EEM法
    EEM法(三次元蛍光法)は、IHSS法の吸脱着や脱塩時のロスを避けるため、これら手順を出来る限り排除した手順で腐植物質を抽出し分画・定量する手法です。測定値は、フルボ酸・フミン酸に分画された全有機炭素量とその有機物の三次元蛍光特性を元にしています。
    なお、腐植物質は、産地や生成過程により分子構造が様々であることから、単位有機物量あたりの蛍光強度も様々となっていますので、蛍光特性から定量値を計算する際は日本腐植物質学会が頒布する腐植物質を基準にした換算値としています。また、全有機体炭素量から得られた定量値は、酸・アルカリに対する溶性が腐植と類似した他の有機物の値を含んでいる誤差があります。
    しかしながら、現在、腐植物質の含有量を選択的に定量する他の方法が実用化されていないため、本法による定量値は意味のあるものと考えます。

<腐植物質の構造や機能について>

腐植物質の構造や機能を調べるために、以下の手法もご提案可能です。

  • NMR
  • FT-IR
  • 熱分解GC など

試料から腐植物質を分離・精製して、その機能や効能を調べる市場要求があると期待されます。
これまでの官庁業務での豊富な実績を元に、関連業務に携わるお客様向けの分離・精製サービスをご提供可能です。

(測定事例(外部サイト:東レテクノ技術資料))

腐植物質の分析 【フルボ酸とフミン酸の定量分析】

株式会社東レリサーチセンター(TRC)は、グループ会社である東レテクノ株式会社(TTK)での調査・分析・試験・測定等、各種評価や試作業務を活用することにより、お客様の問題・課題解決へよりよい支援のためのソリューションを提案しています。腐植物質の分析以外にも東レテクノ特集をテーマごとに特設ページにてご紹介しております。ぜひご覧ください。